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2007年10月23日(火)更新

【こんな社長さんに会ってきました】マイスターエンジニアリング 平野茂夫さん

この「記者・酒井の日記」では、
取材直後の情報のみならず、過去、取材させていただいた
経営者の方に関するエピソードもご紹介しています。
 
今回は、マイスターエンジニアリング会長の平野茂夫さんをご紹介します。
平野さんには過去、対談や特集記事などで、何度かご登場いただきました。

同社は、ビル設備等のメンテナンスを中心に手がけられ、順調に成長。
「マイスター60」という、
60歳以上の人を雇用する別会社を立ち上げるなど、
高齢者活用について嚆矢といえる取り組みをしてこられたことでも有名です。

まいすたー

■マイスターエンジニアリングのHPはこちら>>>
http://www.mystar.co.jp/

創業者である平野さんは、
中国古典、とくに「大学」を社内教育のテキストにしておられ、
同社のホームページでは、平野さんの言葉で次のように記されています。
 
「明徳を天下に明らかにせんと欲する者は、
先ずその国を治む。その国を治めんと欲する
者は、先ずその家を斉(ととの)う。その家
を斉えんと欲する者は、先ずその身を修む」。

これは、当社において経営の哲学としている
『大学』冒頭の一節です。ものごとの根源を
修身に置き、家庭の幸福も会社や国家の繁栄
も、まずは我が身を修めることから出発する、
言い代えれば、自らの主体性(パーソナルア
イデンティティー)の確立こそが、すべての
原点であることを示唆しています。

平野さんは、伝統的な儒教の考え方を、
非常に上手に経営に活かしておられます。
高齢者を雇用しようという試みも、
今63歳のご自身が50代にさしかかったとき、
年長の方を敬う心から出たものだと推察しています。

いつも背筋がしゃんと伸び、気骨と、
大きな優しさが伝わってくるそのお人柄に触れるたび、
こちらも力をいただくような、そんな気持ちにさせるかたです。

以下は新聞記事にも出ていて、
取材のときに平野さんに確認させていただいた話です。

何年か前、「格差問題」が騒がれだした頃、
平野さんが、某一流大学で講演したとき、
こんなことがあったそうです。
複数の学生に格差について発言を求めたとき、ある学生が
「勝ち組と負け組で格差がつくのは仕方ないでしょ。負ける方が悪い」
と言いました。

すると平野さんは、

「その考えは間違っている!」

と一喝。続けて、

「君たちは受験では勝ち組かもしれないが、だ
からといって自分のことばかり考えていては真
のエリートとはいえない。社会に出たらコツコ
ツ地道に努力して頑張っている人に目を向けな
さい。そういう優しさをもって欲しい」

とおっしゃったそう。

会場は一瞬、しーんと静まり、
その直後、拍手がわき起こったといいます。
 
平野さんは、上に立つ者は下の者の身になって考えるべきというお考えで、
そのことを徹底し、自ら実践してこられました。
真摯なお人柄から発する、実践者ならではの迫力が、
学生さんの心を打ったのでしょう。
私の大好きな経営者の一人です。

余談ですが、こういう立派な経営者の方には、
お忙しくて大変ではあっても、
どんどん社外の若い人の前でお話をしていただきたいものです。

(編集部・酒井俊宏)




けいかい
■中小企業経営者のための羅針盤 月刊経営者会報
http://www.njh.co.jp/njs/keikai.htm
■ライフ&ビジネスアドバイザー 日本実業出版社
http://www.njg.co.jp/

2007年10月19日(金)更新

【こんな社長さんに会ってきました】年功序列と「教育勅語」

何年か前に取材させていただいた、
ある地方の食品メーカーさんのことをふと思い出しました。

読まれる方の受け取り方によっては、
会社や社長さんにご迷惑がかかるかもしれませんので、
仮にA社としておきましょう。
そのA社の取り組みに関連して、
このごろ思っていることについて書いてみます。

A社は従業員数は100名ほど。多くの独創的な商品をもち、
何十年も連続して増収増益という立派な業績を上げています。
この会社では、基本的に年功序列の人事考課を行なっています。

「子供を大学に行かせられないような年収では可哀想です。
それは社会的な損失でもある。年齢相応の年収は必要です。
若い社員だって将来の生活設計ができます」

とは社長さんの弁。

A社では、年齢に応じた責任や義務を果たす姿勢を
強く社員に求めてきました。
ちょっと驚きましたが、社員教育の一環として
戦前の「教育勅語」の一部をテキストにしていました。

明治23年に発布された教育勅語に対しては、
様々な思想や立場からの意見がありますし、
アレルギー反応を示す人も少なくありません。
しかし、その社長さんは、

「戦前の日本人が大切にしていた公共心や道徳の
エッセンスが詰まっている」

と言っておられました。
個人的な見解として、私も同様に考えています。

A社の場合、「公」の精神を社員に強く求めており、
そのようにして培われた企業風土があったうえでの
「年功序列」堅持なのです。

A社の取材のあとで、労務問題に強い弁護士の方に、
なぜ年功序列が機能しなくなったか、お聞きしたことがあります。
その先生はこんなことをおっしゃっていました。
なるほどと頷きました。

「年功序列というけれど、昔だってタイムスパンが緩や
かなだけで、実は成果主義だった。長い間に実績を残し、
人望もある人が部長や役員になって、金銭面での待遇も
上がったわけです。高度成長期までは大量生産、大量消
費で、商品やサービスの寿命も長かった。そこでは「経
験」が大きくものを言い、経験に基づいた能力と処遇が
一致する必然性がありました。様々な意味で変化がめま
ぐるしい現在では、その必然性のバランスが崩れてしま
った。要は年相応の成果を出せない人がたくさん出てき
てしまったことで、年功序列が機能しなくなったのです」

もちろん、年功序列を盲目的によしとするつもりはありません。
働く側の意識全般も変わりましたし、
人事考課や制度の考え方もいろいろあって当然です。

ですが、どういった思想や制度の信奉者であっても、
年長者がその年相応以上の働きをすることを
期待しない社長さんはいないでしょうし、
年とともに自分の実力が上がることを喜ばないビジネスマンもいないはずです。

その意味で、A社の例は注目に値すると思います。
責任を全うする意識が全社員に徹底されていれば、
年をとっても、時代の要請についていくセンスや能力が
培われる可能性があることを示しているからです。

責任を自覚し、自分に負荷をかけることで、
かけた負荷のぶん、努力のぶんだけ、
人間の能力は伸びると思いますし、
部下や後輩に対して責任をもって指導にあたるとすれば、
指導する側にとっても多くの気づきを得る場になるでしょう。

素人考えで恐縮ですが、
A社の成功を見ていると、年功序列が成立しなくなった背景に、
日本人が元来もっていた美徳の喪失もあるのではないか、
と思えてきます。

さて、自分は年相応に働いているのか、働けているのか──。

40代半ばにさしかかってきた、われとわが身を振り返り、
自戒の念をあらたにしつつ、以上のようなことを思いました。

(編集部・酒井俊宏)




けいかい
■中小企業経営者のための羅針盤 月刊経営者会報
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2007年08月15日(水)更新

こんな経営者にお会いしてきました ─セコム創業者・飯田亮さん─

数年前、経営者会報の対談記事でお会いし、
そのあとも何度か取材をさせていただいた
セコム最高顧問の飯田亮さん
抱いていたイメージ通りの
とてもダンディな方でした。

1933年のお生まれですので、対談当時、
すでにお年は70を超えてらしたはずですが、
背筋はぴんと伸び、ほほえみを絶やさない。

その対談中、
飯田さんは、ご両親に温かくも厳しく育てられた
思い出を話しておられました。曰く、


「幼い頃、父に連れられて外出したときなど、
駅で疲れてしゃがみこもうとすると、父から
『しゃがむんじゃない。しゃがんでいる人を
見てごらん。恰好悪いだろう』と叱られまし
た。母は、私がため息をついたときには必ず
『ため息をついてはいけない』と厳しく諭す。
不思議なもので、そんなふうに躾けられてい
るうちに、ため息をつかなくなりました」


しゃがむのもため息をつくのも、
その行為がさらに自分の心理に影響して、
余計にマイナス思考になるように思います。
まったく及ばないながら、
私もこのお話を聞いてちょっと実践しようと思った次第です。

さて、対談前、早めにお越しになった飯田さんは、
当社でカメラを担当しているS君(現在40歳)に対してしきりと話しかけ
ふと私が気づくと、
「ほお、Sさんは猫がお好きですか。猫は可愛いよね」
などと会話が弾んでいました。

さらに驚いたのはこのあとです。
S君はそれ以前に一度、飯田さんの取材で撮影をさせていただいたことがあり
この対談の時は新婚ほやほや。

飯田さんは、彼の左手の指輪を見るなり、
「君、ご結婚なさったの?」
彼が「はい」と、おのろけ顔で言うと、間髪入れず
「そうか、それはおめでとう」
と祝福してくださったのです。

普通は事務方にはあまり話しかけたりしないのが、このクラスの人ですが
飯田さんは分け隔てはなさらない。そこにスケールの大きさを感じました。

一方で、一度しか会っていない事務方を覚えており、
しかも指輪のことまで見ている注意力と記憶力にも驚きました。
『大物』というと、細かいことにはかまわない、豪快な人を想像しがちですが
本当の大人物は、実は濃やかなのかもしれません。

だからこそ、周囲の人を魅了し、自ずと事業が育っていくのではないか。
そんなことを感じました。

     *        *        *

こんな形で、今後も、過去お会いした、立派な経営者のお話を、
ときどき書いていきたいと思っています。お目通しいただけたら
幸いです。


■セコム株式会社>>>
http://www.secom.co.jp/

(編集部・酒井俊宏)



keikai
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