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2010年04月20日(火)更新

【取材日記】ニコリ 鍜治真起さん

先月末、ニュートップL.5月号の
特別記事『海外で、売る!』の取材で
ニコリ社長の鍜治真起さんに、
お話をうかがってきました。

鍜治さんは日本国内よりも、
むしろ海外で著名なかたかもしれません。

鍜治さんが命名し、新たな命を吹き込んだといえる
パズル『数独』は世界109か国に広まり、
各国で出版物が刊行されるほか、
新聞や雑誌でも日々、掲載されています。
鍜治さんは世界中の愛好者から
“数独の父”と呼ばれ、敬愛されているのです。

その鍜治さんに、企業が海外進出するさいの
要諦について、お話をうかがってきわけですが、
豪快で、かつ爽やかなお人柄に、
すっかり魅了されてしまった次第です。


かじさん

■ニコリ ホームページ >>>

くわしくは、5月1日発売予定のニュートップL.5月号を
ご参照いただければ幸いですが、ちょっとだけ、ご紹介します。

「数独」の原型は1979年にアメリカで生まれた
「ナンバープレイス」というパズルです。
しかし、当時は誰もこのパズルに注目せず、
鍛治社長が84年、偶然、手にした
アメリカのパズル雑誌で見つけた
ナンバープレイスに興味をもち、スタッフや、
後述する「作家」やファンとともに進化させてきました。

鍜治さん自身、次のように語るほどの人気なのです。

「外国の空港の売店ではどこでも数独コーナー
がありますし、ブリティッシュ・エアウェイズ
の全コックピットでは数独禁止令が出るほど乗
務員が熱中して困っているらしいですよ」

「数独」という名称は、鍜治さんが考えました。
1から9までの数字しか使わないパズルなので
「一ケタ数字→シングル→独身」という連想で、
「数字は独身に限る」……
それが縮まって「数独」になったというわけです。

ニコリでは季刊『パズル通信ニコリ』を八〇年から発行。
これは、パズルファンの投稿で成り立っています。
投稿者は全国に2000人ほど、
常連が500人ほどいるそうです。

にこりさん

優れた問題をコンスタントにつくれるようになると、
「作家」と呼ばれるようになり、社員さんも作家出身者が大半。
ニコリのパズルは紙と鉛筆を使って考えられているのが大きな特長で、
パソコンで自動的に作る、他社のものとはまったく違うそうです。

パズルといえど、手間暇をかけた日本的ものづくりを
貫いていることが、多くのファンの心をつかみました。

海外進出の要諦については、
鍜治さんは次のように語ります。

「海外企業との契約は、フレンドリーシップで始
めるとパートナーシップまでもっていくのにエネ
ルギーがいる。最初からパートナーシップを結び、
企業間の信頼関係を高めることが大切です」


とくにアメリカなどでは、契約は収益のみならず、
想定しうるリスクをどのように分担するか、も
問われるそうで、互いに繁栄しよう、という
パートナーシップが求められるそうです。

それにしても、海外経験豊富な鍜治さんのお話は
大変ユニークで、目を瞠るようなお話をたくさんうかがうことができました。
たとえば、こんな話です。

「海外では先方企業で初めて商談する際、数十分、
社長室などで待たされることがある。非礼でそう
しているのではなく、そうしたスペースには社長
その人を物語る、書籍や趣味のものなどが置いて
あり、それを見て、人となりを知り、フレンドリ
ーになる手がかりをつかんで欲しい、という意味
があるそうです」


「海外のメディアは、『皇太子家の問題について
どう思うか』など仕事に関係ない分野でも日本の
ことについてコメントを求められる。一番違うの
は、海外では話したことを、聞いたままを記事に
してしまう。日本の場合、新聞社にせよ出版社に
せよテレビ局にせよ、一つの番組、記事をともに
つくる、という目的意識を共有できることが多い。
だから“適当”にしゃべっても、ちゃんと記事に
してくれる、という安心感がある」

 
どちらがよいのかはさておき、メディアの世界でも
なにやら日本的な特徴があるようですし、
どこか職人的なところは、
やはり失ってはならない部分であるように思った次第です。

このほかにも、競馬好きな鍜治さんは、
海外で趣味を問われて、そう答えると、
「馬は何頭もっているんだい」とか
「馬の買い付けにいくなら紹介するよ」などと言われたこともあるそう。
単にギャンブル扱いの日本と違って、英国などでは
紳士の、大人の楽しみという扱いで、競馬好き、というと、
「さすがは……」という反応になるのだそうです。

とにかく、面白いお話のオンパレードで
記事にできないのがほんとうにもったいないくらいでした。

鍜治さん、楽しい取材で、大いに勉強になりました。
ありがとうございました。


(編集部 酒井俊宏)




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2010年04月16日(金)更新

【取材日記】ヱビナ電化工業 海老名伸哉さん

過日、弊誌・ニュートップL.4月号の取材、
「特集 デキる人材はトップ自ら採る!」
東京都大田区に本社を構える、
ヱビナ電化工業さんにお邪魔してきました。

お話をうかがったのは、
3代目社長の海老名伸哉さん。

お父上である先代・信緒さんが昨年末、急逝され、
伸哉さんは33歳で社長に就任しました。
大変失礼ながら、その若さでありながら、
実に堂々として、自社の事業を熱く熱く語る
非常にエネルギッシュなかたでした。


えびなしんやさん


■ヱビナ電化工業 ホームページ >>>


この特集は、大企業でなくとも
優秀な人材を採用している企業に
なぜそれが可能なのかをお聞きし
経営者のみなさまのご参考に供するものです。

人材育成はもちろん重要ですが、
それ以前に重要なのは、
どれだけ優秀な人材を採用できるか
(優秀、とは学業のことだけを言っているわけではありません、念のため)、
まずはそこなのではないかと思います。
しかしながら、そもそも中小企業には優秀な人材はこない、
と諦めてしまっているかたも多い。
本当にそうなのでしょうか。

一面、それは事実かもしれません。
でも諦めずに努力を続けている企業では
やはり、成果が上がっているのも事実です。

ヱビナ電化工業さんは、テレビ東京の
『カンブリア宮殿』などにも登場されていますので、
ご存じのかたも多いと思いますが、
優秀な技術系の女性を多く採用し、育てておられます。

↓海老名さんじきじきにご案内いただきました。
えびなさんしゃない

えびなさんに


詳しくは発売中の、ニュートップL.4月号を
ご覧いただければと思いますが、
海老名社長のご発言を一部、引用してご紹介します。

「本格的に新卒採用を始めたのは一〇年前。
以来、毎年五~七人の技術系社員を採用して
います。企業文化の醸成の面からも新卒から
育てるのが一番。本来は男女均等に採用した
いのですが、実力重視で選んだ結果、女性が
多くなってしまった」


なぜそうなるのか。

同社では、先代・信緒氏が主導し、
めっきの技術を、科学的にデータ解析することにシフトし、
従来の職人の勘と経験頼みを脱しています。

そのうえ、営業マンを置かず、
技術者が顧客企業と折衝するスタイルのため、
分析・解析装置を活用できて、
顧客企業に様々な提案ができる人材を求めています。
当然、コミュニケーション能力を重視することになります。

「技術者といえどもお客さんとコミュニケー
ションが取れなければ仕事になりません。と
ころがうちを受けに来る理系の男子学生はま
ともに話すことすらできない人が少なくない」


……ゆえに、結果的に女性が残るというわけです。
男である私は、ちょっと複雑な思いがしますが。

その女性たちの側に選ばれるのもわけがあります。
同社では新しく研究所を建てたり、
工場を改築する設備投資に加え、
パートさんがたくさん勤務しているからでもありますが、
食堂やトイレを拡張したり、ゆったりとお化粧のできる
洗面台を設置したりと、女性が働きやすい環境づくりを
心がけてきました。
一方で、海老名社長は、入社前に仕事を体験させる
インターン研修や、入社後も定期的に社員さんと
個別の面談をもって、悩みも聞いておられます。
そうした努力もあって、離職率も低いそうです。

仕事で高いレベルを求められ、
自分が成長できる会社であること、
環境面においても、
社員を大切にする姿勢のある会社だということが、
自ずと学生側にも伝わることでしょう。

つまりは、よい会社であることがまず先で、
あとは、嘘をつかず、そのことが伝わるよう
努力を重ねていく、ということが大切なように
思われます。

なお、26歳で入社した海老名社長は
先代さんから次のように言われ、
ずっと責任者として採用に力を注いでこられたそうです。

「これから長い間、お前と一緒に仕事をしていく
人たちなんだから、お前が人物を見なさい」


素晴らしいと思いました。

以下は、4月号の編集後記にも書いたことではありますが、
新人の採用は、スムーズな事業承継とともに
企業の「永続・発展」を期すうえで不可欠のものである以上、
承継を念頭に置きながら、自社の採用活動のあり方を考えるのは、
ごく自然なことなのではないか、と感じた次第です。

素晴らしい父、子、そして親子の関係が、承継にせよ、採用にせよ、
その成功の要因であることを思わずにはいられませんでした。

海老名さん、ありがとうございました。


(編集部 酒井俊宏)




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2010年01月14日(木)更新

【取材日記】コクホー 庄山悟さん

過日、経営者会報ブログ会員の
コクホー・庄山悟さんをおたずねして、
大阪へ行ってまいりました。

月刊ニュートップリーダー2月号から始まった
「トップのための名品・逸品」という連載での取材です。

↓自慢の自社製トランク(後述)を手にされる庄山さん。

しょうやまさん


■庄山さんのブログ  >>>
■コクホー ホームページ >>>
■国鞄シリーズ サイト >>>

同社で扱っておられる、「国鞄シリーズ」は、
まさにトップリーダーがもつにふさわしい名作だと思い、
同シリーズをご紹介すべく、おたずねした次第です。
掲載は3月号を予定しています。
写真は、私が撮ったものでは質感が伝わらないので、
庄山さんにお借りしたものを使用させていただきました。

かばんいち

かばんに

いつもは、この経営者会報ブログで、
縦横無尽の、涙あり、笑いあり、の
ハイテンションブログを書かれている庄山さんですが、
素顔は真面目で、自社で扱う商品への“熱い想い”をおもちです。
その想いを余すところなく、語っていただきました。

3月号(ちょっと先ですが)の記事を
ご覧いただければ幸いですが、
スペースの関係もあり、おそらく納め切れない、
庄山さんの事業に対する思い入れを
ご紹介したいと思います。

庄山さんは、大学をご卒業後、東京の総合資材卸商社に勤務、
営業のプロとしてスキルを磨き、
若くして執行役員まで登り詰めたところで、
2006年の1月、お父上が経営しておられたコクホーに入社、
代表取締役社長に就任します。

当時、コクホーさんで手がけていたのは、
学童向けや、一般的な商品が中心です。
そこで庄山さんは、はたと思います。

「自分がもちたい鞄がラインナップになかった。
自分がいる会社に自分のもちたいものがない。絶
望感で打ちひしがれていました。商売人なら、自
分がもちたい、使いたいものを売りたいし、そう
あるべきだと思ったんです」


その絶望感が、大きなビジネスのヒントとなりました。
「これなら欲しい」と思える鞄が果たしてあるのか、
庄山さんは、百貨店から専門店、ブランドショップと歩き回ります。
そして結局、パーツまですべて日本でつくり、皮の材質から
縫製までこだわった、大人の男が、長くもちたいと思える鞄は
見当たらなかったのだそうです。

自分が心底、欲しいと思う鞄がない。
それなら自分たちでつくればいい。
何十年も使える鞄を、使いたくなる鞄を──。

その根拠となったのは、昔、コクホーさんでつくり、
お父上が使われていたトランクです。
今、庄山さんご自身が使っておられます。
冒頭の写真でご本人が手にしておられるのもそれです。

シンプルで飽きのこないデザイン、50年もった耐久性のある、
親から子へと受け継がれたトランクが、
同社が2007年1月に発売を開始した
最高級国産鞄「国鞄シリーズ」の原型となりました。

「長く経営をしておられれば、楽しいことだけで
なく辛いこともあるでしょう。鞄は、そうした喜
びや、艱難辛苦をともにするパートナーともいえ
ます。鞄とともにある思い出や会社や事業に関す
る思い。鞄と一緒に、そうした思い、シミや傷ご
と、たとえばご子息に引き継がれる際、引き継が
れていかれたら嬉しい。そんな思いがあります」

それゆえに、国鞄シリーズは「永代保証」を謳っています。
「日本で五指に入る職人さん」(庄山さん)が手作りで
丁寧に一個一個、仕上げ、
よほど無理な使い方をしてしまった場合を除き、無償で直すそうです。
しかも、近畿圏なら、お問い合わせがあれば
そのお客様のところへ飛んでいく。
まさに破格のビジネスモデルといえます。

「最初は社員も、私を変人扱いしていたと思いま
す。でも、軌道に乗るにつれて、だんだん私が言
っていたことが腑に落ちていったようです」


トップが夢を描き、それが実現していく過程で、
社内も一枚岩になっていく。
さらに、社員の方々が挑戦することの大切さを知り、
自社商品への矜恃をもつ。
そうした、かけがえのない「宝」を
庄山さんと同社は、国鞄シリーズを手がけることで
手にされたのです。

7パターンだけで飽きの来ないシンプルなデザイン。
職人さんの最高の技術でつくられた、
日本の皮革加工技術の結晶といえる逸品。
庄山さんには、日本の皮革技術が途絶えてしまうことへの
危惧もあったそうです。

受け継がれてきた技術を守るために、
自分に何ができるのか、それも庄山さんにとって、
大きな動機であったのでした。

庄山さん、感動的なお話を
ありがとうございました。

そして読者のみなさま、
この鞄、本当にお勧めです。

安くはないかもしれません。
でも、一生ものだと思えば、しかも永代保証ともなれば、
むしろ安いくらいです。
まずは国鞄シリーズのサイトを覗いてみては
いかがでしょうか。


(編集部 酒井俊宏)



ひょうしじゅういち
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2009年11月09日(月)更新

【取材日記】牛肉をめぐる冒険  (サカエヤ・新保吉伸さん)─3─

〈前回記事より続く〉

12月1日発行予定の、
ニュートップリーダー12月号の取材=牛肉をめぐる冒険、これで最後です。

サカエヤ・新保吉伸さんのご案内で、
生産農家の木下牧場さんにお邪魔させていただきました。

滋賀県近江八幡市にある同牧場さんまで、
新保さんの車に乗せていただき、帰りも草津駅まで
送っていただきました。
本当にお手数をおかけいたしました。

行きの行程尾では琵琶湖畔のカフェでランチを取ったりして、
ちょっと「いい旅 夢気分」みたいな道中でした。
といっても、男三人で湖畔に面したカウンターに陣取るのは、
少々、絵にならなかったかも・・・

木下牧場さんは、ご夫婦二人に娘さんたちでやっておられます。
ご主人の木下幸雄さんと、奥様の、その美さん。

ごしゅじん

おくさま

お二人ともに、新保さんと志が同じであることが
お話をお聞きして、すぐ理解できました。
エサから変える、という新保さんの、
業界ではまずあり得ないオーダーを承け、
挑戦を続けているご夫婦です。

取材のあとは、お二人のご案内で、
牛舎を見せていただきました。

ぼくじょういち

ぼくじょう2

五感で取材対象を体感することの大切さを改めて思い知らされた、
と前々回の記事で書きましたが、
この日は、私たちの「嗅覚」の出番でした。

都会育ちでない私は、いわゆる「家畜子屋」というのは
これまでの人生の中で、割合、見てきています。
しかし、木下牧場さんの牛舎は、それまでの、私がもっていた
常識を、わずかな時間で覆してしまいました。
全然、「臭くない」のです。

もちろん多少の動物臭はしますが、
牛舎に足を運んですぐ漂ってきたのは、
稲藁と、日なたの匂い。
よく手入れがされ、丹精込めて、
牛たちを育てていることが素人目にもわかります。

牛たちもいたって元気で、
放牧の時間になると、そわそわし出して、
ご主人の幸雄さんが、放牧場に通じる扉に手をかけると、
「もう待てない!」とばかりに、
牛舎の中を輪になってぐるぐると駆け回る。

牛がのそのそ歩いているのは見たことがありますが、
走る姿というのは、スペインの闘牛のシーンを
テレビで観たくらいで、初めての体験でした。

専門的なことは素人が書いて間違いがあってもいけないので、
詳しくふれるのはご容赦いただきたいと思いますが、
健康に育てられ、元気で体力もあることがわかります。

新保さんによれば、無理に太らされた牛では、絶対に無理だそうです。
そういう牛は、出荷前に絶命することもあるそうです。
いわゆる成人病ですね。

木下牧場さんの牛は、無理に肥え太らせたりはせず、
霜降りの牛でも、そうなる血筋を大事にしているそうです。

川上から川下まで、とはよくいわれることですが、
河口から源流まで遡ったような取材は
私としては、今回が初めてでした。

みなさまのご商売に「嘘がない」ことが
ごく自然に体感できました。

そして、われわれ人間は、他の生き物から命を分けてもらって生きていること。
そのことをよく理解して、大切に育てたり、
扱ったりしている人たちがおられて初めて、
私たちが安全で美味しい食べ物を口にできること──。
この旅で学ばせていただいたことは、とても一口には言えません。

新保さん、木下幸雄さん、その美さん。
ほんとうにありがとうございました。

大変勉強になった、10月の「肉の日」でした。



(編集部・酒井俊宏)





ひょうし0911
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2009年11月04日(水)更新

【取材日記】牛肉をめぐる冒険  (サカエヤ・新保吉伸さん)─2─

前回記事より続く〉

牛肉をめぐる冒険、続きです。

南山さんで、美味しい焼肉をいただいた翌日は、
サカエヤ・新保吉伸さんに取材です。

にいほさんです

さかえやさんいち

■新保さんのブログ >>>
■サカエヤ ホームページ >>>

新保さんに取材をさせていただくのはこれで3回目です。
過去の取材に関しては、この【取材日記】でも
ご紹介してきました(↓)。

■【取材日記】サカエヤ 新保吉伸さん >>>
■【取材日記】サカエヤ・新保吉伸さんを支えた創・村上肇さんの言葉 >>>

これまでの取材では、おもに、新保さんの、
現在の事業を構築されるまでのドラマをお聞きしてきましたが、
このたびは、前回記事でも述べたように、
経営の“見られる化”がメインですので、
サカエヤさんのトレーサビリティへの取り組みをメインに
お話をうかがいました。

というより、この企画はむしろ、
新保さんの取り組みを知っていたからこそ出てきたものともいえ、
はじめから「新保さんありき」であったことを
正直に告白します。

同行した榎本も、新保さんのお人柄やその取り組みを知って、
大いに感銘を受けたようです。
(しきりにダイエット法についても聞いていましたが……)

詳しくは、12月1日発行予定の、
ニュートップリーダー12月号をご覧いただきたいと思いますが、
サカエヤさんをお訪ねする際、体感したいと思っていたのが、
同社の雰囲気でした。

“見られる化”が進んだ企業は、当然ながら、従業員からも、
信頼を得ます。
「うちの取り組みは間違っていない」「うちの社長は正しい」
と思えることが、会社に対する信頼感、事業に対する誇りを醸成し、
それが社内に活気を生み、それも含めて「見られて」いく、という
「プラスの循環」を生み出していく──。
そうに違いない、と考えていたからです。

果たして、サカエヤさんは、
以前、取材をさせていただいたときもそうでしたが、
みなさん明るく、活気に溢れていました。

体調を崩して、新保さんに休め、と言われているにもかかわらず、
店長の川畑勇さんが明るい笑顔で頑張っておられる姿も拝見して、
(あんまり無理をしてはいけません……)
私どもの考えていた通りだと、実感させていただきました。

実際、サカエヤさんでは、従業員のみなさんも
「顧客」で、よくお店のお肉を買われていくそうです。

かなり昔の話ですが、某ファストフード店舗でアルバイトをしていた友人は、
「知れば知るほど、怖くて食べられないよ」と言い、
絶対にその店で食事をしませんでした。
サカエヤさんの場合はまったく逆で、従業員のみなさんが、
自分のところで扱っているお肉は安全で美味しい、
嘘がない、ということをよくご存じで、心底、
自分の存在も含めた会社を信頼しているからでしょう。

“見られる化”が進んだ企業は、その取り組みや組織、
さらには、今回のように、取引先(南山さん木下牧場さん
も含めて、どこをピンポイントで見ても整合性があります。

それだけ中身がきちんとしているからこそ、
「見せる」こともできるのでしょうし、
見せる、見られる過程では、顧客からの感謝の声を
従業員さんが体感することになり、さらなるやりがいを生むのでしょう。

これから中小企業が目指すべき方向性、
勝ち残っていくうえでのヒントは、すべてここにあるのではないか。
サカエヤさんと、新保さんの取り組みをうかがい、
そう思わずにはいられませんでした。

長くなりました。

次回、新保さんにご案内していただいた、
木下牧場さんのレポートをお届けして、
この「冒険」も終わりです。

10月29日のこの日は、そういえば、
「肉の日」でした。


(編集部・酒井俊宏)





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2009年10月31日(土)更新

【取材日記】牛肉をめぐる冒険  (サカエヤ・新保吉伸さん)─1─

かるび


月刊ニュートップリーダー(経営者会報を新装刊)12月号の
特集 経営の「見られる化」を急げ! の取材で、
先日(10月29日)、副編集長の榎本と二人、
サカエヤ新保吉伸さんをお訪ねしました。

■新保さんのブログ >>>
■サカエヤ ホームページ >>>

みなさまご存じの通り、新保さんは
上質の近江牛肉の販売をおもに手がけておられますが、
信頼できる生産農家のものだけを扱い、
業務用に関しても、信頼できる業者にしか卸さない、
というスタイルを貫いておられます。
それは、業界では先駆的だったトレーサビリティへの
挑戦でもありました。

牛と人を、こよなく愛している新保さんだからこそ、
なしとげることができた、と断言してしまいます。

その新保さんの取り組み、周囲の人たちを巻き込む力を
誌面でご紹介するのが、今回の取材の趣旨です。
詳しくは、発刊後の記事をご覧いただきたいと思いますが、
二日間、カルチャーショックの連続でしたので、
この場では、そちらについて記していきます。

カルチャーショックばかりでなく、
真摯なビジネスに取り組む素晴らしい人たちに出会えて、
大きな感動もいただきました。
そんなご縁をつないでくださった新保さんに、
深く感謝申し上げます。ありがとうございました!

……さて、「冒険」とは大げさな、と言われそうですが、
実際、旅を終えたあとは、まさにそんな実感だったのです。

新保さんをお訪ねする前日、京都入りしたわれわれは、
サカエヤさんの近江牛をいただける、京都の南山さんにお邪魔しました。
冒頭の写真は、南山さんでいただいた、近江牛カルビです。

私は以前、新保さんのご紹介で
同社社長の楠本貞愛さん(素敵な女性です!)に
取材をさせていただいたことがあります。
そのときは、すぐ次の取材現場へ急がねばならず、
「本物の近江牛」をいただくことができませんでした。
ようやく念願が叶いました。

社長さんにはご出張のためお会いできませんでしたが、
妹さんで、取締役を務めておられる孫貞麗さんに、
お話をうかがうことができました。
貞麗さん、そして終始、濃やかな応対をしてくださった
従業員のみなさま、ありがとうございました!

夕刻のため、露出不足ですみません・・・

なんざんさん

かんばんなんざん

■南山 ホームページ >>>

いただいたお肉は、“サシ”が多くはなく、
いくらでも食べられそうな、胃にもたれないお肉です。
味わい深いのに爽やかで、ちょうどいい噛みごたえ。
お肉をいただいている実感があります。

正直、44年の人生で味わったなかで一番! でした。
肉好きなことにかけてはおそらく私を上回る副編集長も、
同意見でした。

↓近江牛のお刺身です。

おさしみ

↓お肉だけでなく、モツやナムルなども最高でした。

もつ

なむる


いわゆる“サシ”の多いお肉こそが上等で、旨い、というのが、
常識化していますが、新保さんの考えは違います。

無理矢理、牛を太らせて脂まみれにしているのが現状であり、
それでは牛も可哀想だし、いただく人間も不健康になる──
新保さんはそう警鐘を鳴らしておられます。

健康で上質なお肉をいただいて、
新保さんのおっしゃることが、
より深く理解できた気がします。

取材というものは、当然ながら、現場、現地に足を運ばないといけない。
自分の五感を総動員して、感じなくてはいけない──。

いつも、そんなふうに肝に銘じているつもりでしたが、
目や耳ばかりではなく、「鼻」や「舌」まで使った
今回の取材では、その大切さを改めて、痛感した次第です。

美味しいお肉をいただいた話で終わってしまいました。
新保さんやサカエヤさんの取り組み、
そして生産農家・木下牧場さんについて、
明日以降、ご紹介していきます。


(編集部・酒井俊宏)







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2009年08月07日(金)更新

【取材日記】共伸技研 加藤克典さん

経営者会報最新号では「統率力を鍛える」というテーマで
特集を組んでいます。

つまりは、リーダーシップの話なのですが、
あえて「統率力」としたのには、理由があります。

一人のカリスマ、あるいはワンマン的なトップの指揮で
経営がうまくいった時代はとうに過ぎ、
会社全体で知恵を出し、現場で個々の社員が考えながら
真摯に動いていくことが、差別化のポイントとなりつつあります。
そこでトップが機能するうえでは、社員との関係性が
より重要になってきていると考えるからです。

事例にご登場いただいた経営者のみなさまは
壁にぶつかりながらもその方独自の考えに基づいて、
粘り強く、社員の心をつかんでいったかたばかりです。

そのうちのお一人が、工業用ブラシの開発・製造を手がける
共伸技研(大阪府門真市)の加藤克典さんでした。


かとうさん

■共伸技研 ホームページ >>>
■加藤さんのブログ >>>


経営者会報ブログの会員である村上肇さんの主宰する
「e製造業の会」の会員さんでもあります。
経営者会報ブログの会員さんにもご存じの方は多いことと思います。

お話をうかがって、加藤さんの取り組みは
まさに、二世経営者が社員の心をつかむうえでの
サンプルだと思いました。

詳しいお話は、経営者会報最新号をご参照いただければと思いますが、
さわりをご紹介したいと思います。

加藤さんは、お父上で創業者の重信さんの跡を継ぎ、
昨年、社長に就任しておられます。

2000年に入社した加藤さんは、
それまで在籍していたメーカーに比して
ギャップに悩んでいました。
納期や仕上がりのことで、社員さん同士、
もめることが少なくなかったのだそうです。

みんな、一所懸命やっているのに、どうしてそんなことになるのか──
加藤さんは次のように振り返ります。

「私が目指したのは、皆が楽しく、誇りをもって
働ける職場にすることでした。お客様に喜んでい
ただくには、まず作り手が楽しく働いて、自分た
ちの思いや誇りを込めてものを作ることが大切だ
と思ったんです。その思いは、今も変わっていま
せん」

やがて、加藤さんは、そうした問題を払拭するには
きちんとした生産管理が不可欠だと気づきます。

それはご本人の当初の想像以上に大変な道のりでした。
生産管理以前の問題として、いわゆる「見える化」ができていないとならず、
その事実は、必然的な帰結として、
加藤さんを3S活動へと走らせることになります。
そして、同志ともいうべき大阪府内の8企業が集い、2005年の暮れ、
「大阪生産革新研究会」(略称OPI)を結成するのです。
同会には、当経営者会報ブログ会員の澤田浩一さん率いる
サワダ製作所さんも参加しています。

しかし、活動を開始しようというころ、
「俺たちのやってきたことを否定するのか」と
お父上が猛反発。
途方に暮れた加藤さんでしたが、自ら毎朝、清掃を始め、
そのうちに徐々に見習う社員さんが出て、
その数は当時の全社員18名のうちの7名となりました。

それでも、2006年5月のOPIのキックオフ以後もお父上の許しは下りず、
全社的に取りかかることはできなかったのです。

加藤さんはこの苦しい時期をしっかり足を地につけて乗り切り、
あせらず、7名の同志とともに3S活動を続けます。
ついにキックオフから3か月後、お父上の許可が下ります。

それ以後の同社は、加藤さんを中心に
一体感のある職場となっていき、
3S活動を徹底、そして生産管理にも全社的に取り組み
生産性が大きく向上していくのです。

きょうしんぎけんしゃない

自ら手本を示し、あせらず、
自発的に社員さんが行動するのをじっと待ち続けたこと。
お父上をねばり強く説得したこと。
いまもお父上を深く尊敬しておられること──。

一般的にいって、二世経営者は、
ともすれば早急な改革を急ぐ傾向が強いように思われますが、
加藤さんは違います。

やりたいことを通すには、まず自分の実績を作ることだと、
ネット受注に専念し、売上をつくって社業に大きく貢献。
ネットビジネスは現在、同社の大きな収益源であり、
ブログなどでの情報発信に同社が長けているのも、
加藤さんのこの取り組みから始まっているといえます。

自分が会社を継いでもらう立場にあるとしたなら、あるいは
自分が社員として働く会社で、その会社を二世が継ぐとしたなら、
こんな人にこそ、継いでもらいたい。
加藤さんにお会いし、お話をお聞きしたならば、
誰しもそう思うのではないかと思えてなりませんでした。

取材を終え、帰途についてからも、
そして、すでに記事が誌面に出たいまでも、
その思いが消えません。

加藤さん、ありがとうございました!
大変勉強になりました。


なお、このたびも、会員さんである社会保険労務士・井寄奈美さん
お口添えをいただき、共伸技研さんへの取材は実現しました。
深く感謝申し上げます。
そして、前出・サワダ製作所の澤田浩一さんも
共伸技研さんの弊誌へのご登場のことを書いておられます。
こちらも、ぜひご覧ください。

■OPI 共伸技研・加藤氏が「経営者会報」に登場 >>>

井寄さん、澤田さん、そして、加藤さんをよく知る
経営者会報ブログの会員のみなさまにも、深く感謝申し上げます。

加藤さんが、普通ならなかなかお話しいただけないはずの
立ち入ったお話を、初対面の私にしてくださったのも、
みなさまと加藤さんの強い絆のおかげだと思っております。

ありがとうございました!




(編集部・酒井俊宏)




けいかいきゅうなな
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2009年07月31日(金)更新

【取材日記】長濱製作所 立入勘一さん

過日、経営者会報本誌の取材で
京都に行ってまいりました。
長濱製作所社長・立入勘一さんへの
取材です。

たちいりさん

ながはまさんしゃおく

■長濱製作所 ホームページ >>>

記事は、弊誌に好評連載中の、中村智彦の「ものづくりの現場から」
中小製造業に造詣が深く、ご自身、「ものづくり企業の応援団」を名乗る
神戸国際大学教授・中村智彦氏が全国各地の製造現場を訪れ、
御自ら社長さんに取材し、
他の経営者のかたにとって参考度が高いと思われる点や
注目すべきエピソード、取り組みをご紹介いただくものです。

中村先生は、日本テレビ系列の「世界一受けたい授業」をはじめ、
多くのメディアに登場しておられますので、
ご存じのかたも多いことと思います。

私は取材のたびに、お供をさせていただき
いつも勉強させていただいております。

右のかたが中村先生です。
おふたり

実は、立入さんには、私はすでに何度かお目にかかっています。
経営者会報ブログのテストマーケティング研究所にも
ご出席いただいたことがあり、
経営者会報ブログの会員さんにも、親しくしておられるかたが
何人もいらっしゃいます。

中村先生から「素晴らしい社長さんがおられますよ」と
立入さんをご紹介いただいたわけですが、
“既視感”を感じてなりませんでした。

ある人に、素晴らしい社長さんの存在をお教えいただき、
注目していると、別の人からも同じ社長さんを推挙いただく。
最近、このようなケースが増えているからです。

とくにこの経営者会報ブログの会員さんから
ご紹介いただいたかたに、このような形でお会いすることが
増えてきています。
そして現実にお会いすると、みなさん素晴らしいかたばかり。
よい人が太鼓判を押す人はやはりよい人なのです。

経営者会報ブログという場では、会員のみなさまは善意で
よい情報を互いに教え合っておられますが、その輪の中に
経営者会報編集部も取り込んでいただいている感じです。
会員のみなさまがたには、深く感謝申し上げる次第です。
ありがとうございます。

では、そろそろ立入さんのご紹介を・・・
詳しくは、経営者会報最新号をお手に取っていただきたいと思いますが、
私自身、深く感心させていただいたエピソードを
ご紹介したいと思います。

昨秋来の不況は、いうまでもなくほとんどの業界を直撃し、
そのダメージを払拭できていない企業が多いことと思います。
精密部品製造を手がける長濱製作所さんも、
ダメージは受けています。

しかし、立入さんは、
このたびの危機を一貫して前向きに捉えてきました。
その点が常人離れしています。

昨年春の段階で、すでにこの不況を予測されたそうで
その先見性にも凄いものがありますが、
もっと凄いことに、立入社長は、
その段階で、最新設備の導入を決断するのです。

「仕事が減るなら減ったで仕方がないことです。そう開き
直って、社員のスキルの向上や教育のよい機会だと捉えま
した。最新の設備を導入し、使いこなせるようになれば、
不況が終わったとき、飛躍のチャンスを迎えることになり
ます。実際、過去の経験からみて、不況の後は技術革新が
進むんです。景気が回復に向かったときはお客さんはより
高い技術を求めてきますから」

銀行からの信用もあり、内部留保もあるからこそ、
できることでもありますが、それも、立入社長と
社員のみなさまの努力の賜物でしょう。

いま、景気回復後を見越して、
同社の工場には、顧客である大手メーカーの担当者も
頻繁に足を運んでいるそうです。

中村先生にお供して、工場を見学させていただきましたが、
3S、5S活動に取り組む同社の工場は非常に綺麗で、
明るい雰囲気が漂っていました。

ながはまさんしゃいんさん

こちらが件の最新設備です。
さいしんせつび

お二人のお話がはずみます。
おふたりにばん

教育熱心で面倒見のよい経営者の指揮のもと、
社員はみなさん元気で明るく、それゆえに
いっそう、綺麗で明るい工場に感じられた面も
あるように思います。

果敢にリスクを取る。
社員を愛し、教育に余念がなく、
「ものづくりを覚えるなら中小企業が一番!」と胸を張る心意気──。
立入さんの姿勢には、素晴らしいものがあります。

立入さん、長濱製作所のみなさま、
ありがとうございました!


なお、すでに会員さんのいよりんさんこと、
井寄奈美さんも、相前後して長濱製作所さんを訪れ、
【取材日記】を書いておられます。
こちらもぜひご覧ください!

■なにわの社労士発~「今日もこんなええことありました」 >>>



(編集部・酒井俊宏)




けいかいきゅうなな
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2009年06月08日(月)更新

【取材日記】伊那食品工業 塚越 寛さん ─2─

前回取材日記より続きます)

伊那食品工業会長・塚越 寛さんは
信念の人でした。

同社の実質的な創業者といえる塚越さんですが
ご本人の信念がそのまま、同社の企業風土に結びついている──
そう感じずにはいられませんでした。

つかごしさんに

同社の基本姿勢は、塚越さんがご著書、
『リストラなしの「年輪経営」』の中で述べ
そのタイトルからもわかるとおり、
着実に、木が年輪を刻むように、
少しずつ成長していく会社を目指すというものです。

なんのためか。
それはこの社是の実現のためです。
(↓応接室に飾られていたものです)

しゃぜ

塚越さんのおっしゃる「いい会社」とは
経営上の数字がよいだけでなく、
会社を取り巻くすべての人々から
「いい会社だね」と言ってもらえる会社のこと。

すべてのステークホルダーと
良好なウィン-ウィンの関係を保つことが
企業の永続につながるという発想です。

塚越さんの考える、一般にいわれる「良い会社」とは、
要約すれば売上至上主義、時価総額主義など、
往々にして社員の幸せを犠牲にする会社のこと。
当然ながら、そうした会社を目指す気はまったくないとのことです。

しゃない
(みなさん真剣かつ楽しそうに仕事をしておられました)

そのために同社と塚越さんが守り続けているのが、
「年功序列」の人事制度です。
機械的に横並びなのではなく、飛び抜けて優秀な人に対しては
抜擢人事はしているそうです。

年功序列の弊害は、高度成長期の終わりとともに
長く指摘されてきたことではあります。
それは、平たく言ってしまえば、
年相応に働かない(働けない)社員が多く出てきたということでしょう。

年功序列では、年相応に働かない人を甘えさせる結果になるということ、
それと企業側が人件費をコスト視する傾向とあいまって
多くの企業で成果主義が導入されたわけですが、
結果、さまざまな弊害も生じたというのが、
この10年あまりの人事考課制度の流れだったと思います。

では、同社の年功序列制度はなぜ成り立つのか。
塚越さんは次のような表現でお答えくださいました。

「みんなが、会社のため、周囲のみんなのために、
あるいは自分自身のために、毎日なにがしかの努力
をして高めていくような状態にある会社では、年功
序列が正しいに決まっています」


「人間、だてに生きていない。経験が積み重なって
いったら賢くなる、絶対賢くなる。どんな人でもね。
だから年功序列が正しい。別の角度から考えると、
子供が育ってきたら金がいるんです。いる時期があ
るんですね。年功序列じゃなくていわゆる成果主義
でやると、子供にお金がかかるのにお金がない人も
出てしまう。トンビがタカを生むこともあるでしょ
う。親父がダメでも子供は優秀ということはいくら
でもある。そういう子供たちが教育機会が得られな
かったら、国家的な損失です」


……うちの社員にトンビはいないけど、と付け加えて
このようにおっしゃいました。そういう塚越さんですから、
昨今の大企業のリストラには当然批判的です。

「雇用する責任というのは、会社を経営していくうえ
で最大の、一番基本的な責任です。それを放棄した会
社に明るい将来があるのか、甚だ疑問ですね」


そんな塚越さんの自慢は、社屋でもなく環境でもなく、
やはり社員のみなさんです。

この取材の日、いつもは車通勤だそうですが、
この日はたまたま、ご自宅から15分ほどの道のりを
歩いてこられたそうです。

「みんなが掃除している最中に来たわけです。凄まじ
いね。実際ビックリしました。社員が全員でやってい
る、それぞれが自発的に。すごいって思いましたね。
頼もしいかぎりです」


そうおっしゃる塚越さんご自身、
社員のみなさんと一緒に掃除をしておられるのを
取材前に周辺を散策していた私は見ています。

このような塚越会長の経営観や人生観は、
高校生の頃、肺結核を病まれた経験から来ています。
病から立ち直った塚越さんは、心底、
「働けるだけで嬉しい」
ということに思い至ったそうです。

職場環境を整えるのも、塚越さんにとっては
当然のことなのでしょう。
同社のオフィスには、マッサージチェアがあちこちに置かれ、
社員食堂も、渓谷に面したテラスがあったりと、
とても一企業の食堂とは思えません。

会社負担で一年おきに海外に社員旅行に行くのも、
なかなかにできることではなく、
もう何十年も続けているそうです。

このほかにも、「教育勅語」を研修に使われたり、
「ケチは悪循環の始まり」「利益なんてカス」
といった刺激的なフレーズが並ぶ、塚越さんのお話には
仕事であることをときどき忘れながら、聴き入ってしまいました。
記者冥利に尽きる、幸せな時間でした。

全部をご紹介したいのはやまやまですが、
塚越さんのインタビューは、
経営者会報7月号に掲載させていただきますので
ぜひ、そちらでもご覧下さい。

塚越さん、伊那食品工業の社員のみなさま、
ありがとうございました!


ろくがつごう
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2009年06月04日(木)更新

【取材日記】伊那食品工業 塚越 寛さん ─1─

先週末、経営者会報本誌7月号『永続企業になる!』の取材で、
長野県伊那市へ行ってまいりました。

伊那食品工業会長・塚越 寛さんへの取材です。

かいちょうさん

ご存じのかたも多いと思いますが、
塚越さんは、永続を志向し、急成長は避け、
少しずつ、着実な発展を果たすことを念頭に
経営をしておられます。

教育に力を入れ、「年功序列」を崩さず、
メセナという言葉が広まる前から、地域社会への貢献を
自身と自社に課してこられています。
最近、『年輪経営』という本もお出しになりました。
経営者のファンのかたも多いと思います。

まさに、日本的な価値観を大切にした経営で、
多くの企業にとって学ぶべき点が多い会社だと思います。

数年前、弊誌の「異能経営者がゆく!」で
取材をさせていただいたことがあり、
私がお目にかかるのは、2度目となります。

ふだんは、取材でお邪魔してすぐに
ここでご紹介することはあまりしないのですが、
(ある程度、整理して書く義務があると思いますのでそのようにしております)
あらゆる面で素晴らしい会社であることと、
その環境の素晴らしさに感動したこと、の2点から、
早々にご紹介したいと考えました次第です。

今回は、同社と、その周囲の環境の素晴らしさと
地域貢献の一端を、写真中心でご紹介したいと思います。

最寄り駅のJR飯田線・沢渡(さわんど)駅を下りて
歩いてみました。
同線・伊那市駅からタクシーを使えばすぐなのですが、
素晴らしい環境なので、おいしい空気を味わい、新緑の景色を眺めながら
お訪ねすることにしました。

沢渡駅を下りて。天竜川のほとりから撮影。
いなしです


沢の右手にある道を上っていくのですが、
同社の本社はなんと、この上流の左手にあるのです。
さわ

本社の手前の橋から、沢を見下ろしてみました。
さわを

本社の敷地は、塚越会長の方針で木々が豊富です。
森の中に会社があると言ってもいいくらいです。
ほんしゃ

窓枠には花が飾られています。
しゃおくに

朝、8時半過ぎ、社員の方々が、一所懸命、
掃除をしておられました。
そうじ

先にも述べたように、同社は、地域社会に貢献しようということで
さまざまな取り組みをしておられます。

その一環が「かんてんぱぱガーデン」の運営です。
和食、洋食、そばなどのレストランがあり、
同社が長年培ってきた「寒天」の美味しく、体によい食べ方や調理法を
楽しみながら味わえます。
庭園に売店も備えていて、いまではすっかり観光スポットになっています。
年間30万もの人々が、全国から訪れるそうです。

にわ

和食レストラン「さつき亭」。
さつきてい

こちらはおそばやさんです。
そば

洋食レストラン「ひまわり亭」。
にわさん

取材を終えたあと、ここでパスタをいただきました。
パスタも美味ですが、寒天を使ったサラダが絶品でした。
従業員さんの感じのよさが印象に残りました。

ぱすた

さらだ

売店では、同社の商品だけでなく、
地元の農家のかたの作った野菜なども直売しています。

ばいてん

ガーデンの敷地内には、地下深くからくみ上げられた井戸があり、
この美味しい水は、地元のかたに無償で提供しておられるそうです。
同様の井戸が、本社の敷地内にもあります。

いど


同社はこのような環境を一気にではなく、
少しずつ、整えてきたのです。
そこが素晴らしいと思います。

塚越会長は「お金は遣うためにあるんです」
おっしゃいます。

いま改めて脚光を浴びている
塚越さんご本人の経営観、価値観については、
次回、ご紹介したいと思います。

※続きはこちら >>>


(編集部・酒井俊宏)




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『月刊ニュートップリーダー(L.)』(前身は「経営者会報」)編集部にて社長の取材記事を担当。十数年の間に800名以上の経営者に取材、多くの経営者に感銘を受けた経験から、「日本を支えているのは中小企業とその経営者」と確信し、敬意を抱いている。『経営者会報ブログ』サイト編集部員も兼ねる。

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