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【取材日記】エルプ 千葉三樹さん

投稿日時:2008/02/22(金) 16:49rss

昨日、経営者会報4月号『異能経営者がゆく!』の取材で
まさに、異能と呼ぶにふさわしいかたに
お会いしてきました。

世界で唯一、「レーザーターンテーブル」を
製造・販売しておられる、
エルプ社長の千葉三樹(さんじゅ)さんです。

千葉さんは、同社を創業される前は、
あのGEに長く在籍、副社長まで務められ、
最後は、当時のジャック・ウェルチ会長と
事業売却の経営方針を巡って衝突し、GEを去ったという、
ものすごい経歴の持ち主です。

レーザーターンテーブル(以下LT)とは、ひとことでいえば、
レーザー光線で情報を読み取るレコードプレーヤー。
千葉さん自ら、原理を説明してくださいました。

ちばさん

LTは、レーザー光線によって音溝を検知し、
音声信号を読み取ります。
通常のアナログプレーヤーと違い、針を使わず非接触のため、
レコードが傷つくこともない。
使い勝手や操作性の面でも、一発で頭出しができたりと、
CDプレーヤーと遜色はありません。
機械のサイズもほぼ変わりません。

ご存じのかたは多いと思いますが、
CDではノイズカットのため超高音をカットしており、
実はアナログレコードのほうが、繊細でみずみずしく、
音質自体は上だというのが定説です。

しかも、レコードは音溝の面すべてに同じ音信号が刻まれていますが、
針は一部にしか当たらず、そのために摩耗し、音質も劣化していってしまう。
同社のレーザーターンテーブルは、削っていない部分から読み取るため、
録音当時の音声がそのまま蘇るのだそうです。

ターンテーブル

■エルプ ホームページ>>>
http://www.laserturntable.co.jp/

GEに長く勤めた千葉さんが
どうしてこの事業を手がけることになったのか。

それはGE時代の同僚から、
この技術の開発者である米国人、ロバート・ストッダート氏を
紹介されたのがきっかけでした。

ストッダート氏はこの画期的な技術を開発しましたが、
再生できるレコードの率がまだ低く、
実用化の壁と資金難に苦しんでいました。

当時30歳前のストッダート氏と
千葉さんは、初対面から意気投合。
当初は、開発に協力してくれる日本のメーカーを
探すことで、支援しようとします。

しかし、時は1989年。
すでにレコードからCDへの移行が進んでおり、
手を挙げるメーカーは皆無だったのです。

思い悩んだ挙げ句、千葉さんは、
ストッダート氏から特許権を買い取り、
すべて自分の責任で事業を手がけることを決意。
ストッダート氏はその後も千葉さんとともに
研究を続けます。

それはまさに茨の道でした。

「誰もやらないなら俺がやる、と決意しましたが、
大変でした。なぜなら、レコードもCDも、昨今
話題のブルーレイディスクにしろ、通常、ハード
とソフトは同時に開発されます。したがって、ハ
ードの不備はソフト側に機能をもたせることで補
完することができる。しかしレーザーターンテー
ブルは、ハード面だけの開発です。市販化への難
しさもその点にありましたし、大手メーカーが手
を挙げなかったのも当然といえます」

千葉さんは、私財を投入し、自宅を売り払い、
開発に勤しみます。
そして、95%のレコードが再生可能になりました。
ついに2000年には収支とんとん、
翌年には念願だった黒字化を果たします。

いまでは、月産12台を生産し、
多くのバックオーダーを抱えるまでに。

詳しくは、4月1日発行予定の経営者会報4月号を
お手に取っていただければと思いますが、
事業売却を進めようとしたウェルチ氏との衝突も、
誰もが無謀だといったこの事業への取り組みも、
すべては、千葉さんの、
長年、ものづくりに携わってこられた
矜恃がそのもとにあるといえるでしょう。

新技術が、常に大量生産、大量消費のみに投入される現状を見て、
そうではない道もある、と示したかったのだそうです。

加えて、多くの人々からの感謝の声が、
千葉さんを支えました。
有名なジャズピアニスト、キース・ジャレット氏は、
LTを自ら購入後、その音質に感動し、
「推薦文を書きたい」と連絡してきたそうです。

「一番感動したのは、カナダの政府筋からの依頼
で、国立図書館に納めたとき。実は英国から独立
した際の国会議長の初めてのスピーチが録音され
たレコードがありました。いうなれば独立宣言。
しかし、反り返ってしまって再生できず、誰も音
声を聴いたことがなかった。それがLTで再生し
たら、当時の音声がそのまま出てきた。多くの政
府関係者や現地マスコミがいる場です。全員、感
動しておられて……あんな嬉しいことはなかった」


千葉さんはこのとき、
いっそうの事業意欲が湧いてきたとおっしゃいます。
技術革新の陰で消えてしまう、こうした文化遺産に
まさに“光”を当てる──。
そこに大きな使命感を感じたそうです。

それにしても、ショールームで聴かせていただいた
LTの音質は艶があって響きに余韻があって、
とても素晴らしいものでした。

1台約105万円と、通常のCDプレーヤーや
アナログプレーヤーとは到底、比較にならない高価格ですが、
さして問題にならない、高い付加価値のある商品だと思います。
ブログで特定の商品に肩入れするのは、極力控えていましたが、
このLTは、特別です。
そのくらい、びっくりしましたし、
感動しました。

クラシックやジャズがお好きで、
レコードを多くコレクションしておられるかたなら、
きっと満足されることでしょう。

「企業の都合で事業を撤退すれば、迷惑を被るの
はお客さんです。ウェルチさんとぶつかった理由
の一つでもある。オンリーワンの企業は、なおの
こと、潰れたり、撤退してはいけない。その技術
をもっている会社が一つしかないんですから、潰
れたら誰がお客様にアフターケアをするのか。だ
から絶対に潰さない。頑張りますよ」


千葉さんは、無条件で応援したくなる、
すばらしいかたでした。

(編集部・酒井俊宏)



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 千葉さんの、お名前が「さんじゅ」である事を、お書き戴き有難うございます。どう、お読みするのか、ずっと、疑問でした。酒井さん御自身がインタビューされたので間違いない筈です。

Posted by 河村 信一郎 at 2016/10/23 01:42:14 PASS:
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『月刊ニュートップリーダー(L.)』(前身は「経営者会報」)編集部にて社長の取材記事を担当。十数年の間に800名以上の経営者に取材、多くの経営者に感銘を受けた経験から、「日本を支えているのは中小企業とその経営者」と確信し、敬意を抱いている。『経営者会報ブログ』サイト編集部員も兼ねる。

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