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【取材日記】ソウル紀行(5)

投稿日時:2008/05/30(金) 08:58rss

いうまでもなく、
日本と韓国はある期間、“一つの国”でした。

どういう意図があってのことなのか(だいたい想像はつきますが)、
中学や高校の日本史の授業では、そのあたりは
妙に駆け足で進み、あるいはトバされ、
学校できっちり教わった記憶というのが
私にはありません。ほとんどの人が同じ思いでしょう。

戦前の日本を評価しようが批判しようが、
なにが起きたかを知らなくては、
どのようなスタンスであれ、取りようがありません。

私の場合、歴史に興味があって、
高校生くらいからは近現代史の本に目を通してきました。
日本が統治していた時代の朝鮮半島は、おそらくこうだったろう、
という自分なりの考えは固まっています。

そんな私ですので、せっかく韓国へ行けるのだから、
日本統治の痕跡や、巷間いわれるほど、韓国の人たちに「反日感情」があるものなのか、
それやこれやを少しでも体感したいという思いを、
無意識に抱きつつ、歩いていた面もあります。

これは、日本統治時代、1925年竣工のソウルの旧駅舎。
造形的にも素晴らしいものでした。
東京駅の赤煉瓦駅舎と似ています。

そうるえき

誰の手による設計かは、東京駅の設計者・辰野金吾とする説と
同時代に辰野を支えて活躍した塚本靖とする説があるそうです。

●戦前派の御老人と出会う

パジュブックシティへ視察に行った帰途のバスの中で、
個人的には、この旅のハイライトといえる出会いがありました。
戦前の日本の教育を受けた御老人と出会ったのです。

みなみさん

バスに乗り込んだ際、
運賃箱にお金を入れたときに出たお釣りが自分のものと思わず、
放ったらかしに通り過ぎた私に、身振り手振りで
「あなたのものだよ」と示してくださったのが、
前のほうに座ってらした、この御老人でした。

思わず頭を下げると、御老人は笑みをたたえながら、
ご自分の隣の空席を指しつつ、
「シッダウン」とおっしゃいます。
素直に従うと、御老人の口から、ゆっくりとした口調の綺麗な日本語が。

「日本からいらしたのですか?」
「お仕事はなにをなさっていますか?」

そんな質問に答えていくうちに、だんだん打ち解けてきます。

「日本では老人を大切にしていますか、敬っていますか?」

そう思い、行動している人は沢山いると思いますが、国や政治家からはあまりそういう姿勢が伝わってきません……と答えると、

「そうですか。韓国も同じですね」

御老人は、日系企業の石油関係のプラント建設の現場で長く働いておられたそうで、
中東などへも行かれたといいます。リタイア後は投資などで成功されたとのこと。
あとでお年をうかがうと、79歳。
15歳まで日本の教育を受けたことになります。

真面目に働かれたことを証明するような、
節くれだった手をしておられました。

しばし世間話のようなかたちで話をするうち、
よければ、名刺をください、と言われ、お渡ししました。

「酒井さん、ですね。私は南(ナム)と言います。日本式に
ミナミと呼んでください」

かなり打ち解けた気がした頃合いで、私は次のような質問をしてみました。

「日本人や日本のことをどう思っておられますか? お嫌いですか」

御老人はすぐ笑って首を横に振りつつ、こう答えました。

「日本人だから嫌いなんてことはない。韓国人だって日本人
だっていい奴がいれば悪い奴もいる。それだけのことだよ」

そのあと、御老人はぽつりとこうおっしゃいました。

「……酒井さん、日本にサムライはいまもいますか?」

ハートやマインドという意味でなら、そういう人はいます……と答えてから、
「戦前はそういう日本人はたくさんいたのですか、学校の先生とか」と訊ねると、
遠くを見る眼差しで何度も頷いておられました。

そのうちに、「名刺をもう一枚ください」と言われ、お渡しすると、
御老人は、そこにご自宅の電話番号を書いてくださいました。

「私の家のほうは魚が美味しいんです。美味しいどぶろく、
マッコリね。美味しいどぶろくがあります。今度また韓国
へいらっしゃることがあったら、必ず連絡をください。歓
迎しますよ」

なんだか、鼻の奥がつんとしてきて、
泣きそうな気分になりました。

御老人はこんなこともおっしゃっていました。

「日本の男は真面目なのはいいですが、細かすぎる。もっ
と大らかに生きたほうが幸せなのではないですか。お酒も
ね、こんな小さな器で(と、お猪口の形をつくって)飲む
でしょう。私ら韓国人は、どぶろくをこういうどんぶりで
ぐいっと飲む。最高ですよ。何杯も飲んで、そのうち、首
ががくっとするまで飲む」

そう言いながら、なんとも楽しそうな様子で、
がくっと首を前に傾ける。

最初に掲載した写真は、このやりとりのあたりでご本人に許可を得て、
撮らせていただいたものです。

最後は終点でともにバスを降り、握手をして別れました。

一緒だったのは、30分ほどの間でしたが、
2、3時間ほどにも感じられ、忘れられない思い出になりました。
あるいは韓国滞在中、最も濃密で、貴重な時間だったかもしれません。

いつかまた、韓国を訪れる機会があったら、
必ず御老人のお宅を訪ねてみるつもりです。

(編集部・酒井俊宏)



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コメント


どんぶりで飲もう!

酒井さん

じぶです!

すばらしい出会いがありましたね
拝読して、目頭が熱くなりました。

【国を統治すること】 善悪も含めて非常に難しいですね

南さんの質問も秀逸ですね
「サムライ:もののふ」その心は・・・
善人悪人がいるということ



今日は、久しぶりに鶴橋辺りヘ繰出して焼肉でまっこりをどんぶりでヤルことにしましょう


昔のこと、父とその友人のやり取りを思い出しました。その2人を偲んで乾杯します。

友を誘おう

Posted by じぶけん at 2008/05/31 09:27:00 PASS:

がくっとするまで!

治部さん

コメントありがとうございました! 
実際、涙がこぼれそうな気持ちになっていました。大切な思い出になりました。
いま31日の夜コメントお返ししていますが、いまごろ、治部さんの首ががくっと前に垂れている頃でしょうか。
近いうち私ともマッコリをどんぶりでお付き合いくださいね。お父上とお友達のお話もお聞かせいただけたら幸いです!

Posted by 酒井俊宏 at 2008/05/31 20:32:00 PASS:

こんにちは!

酒井様
先日はありがとうございました!
岡崎塾3期生の福岡です。

自分も「韓国=反日感情」という
イメージを強くもっていたので、
今回の記事はとても興味をもって読ませていただきました。

なかでも、今回のミナミさんの
『日本にサムライは今もいますか?』
という質問がすごく印象に残りました。
ミナミさんから見て、きっとかつての日本の『サムライ』達は尊敬に値する人達であったんでね。

それに比べて今の日本はどうなの??
と思ってしまうところが悲しくもありますが・・・

当時の方がそのように思って下さっていたことを
凄くうれしく思いました。

Posted by 福岡秀明 at 2008/06/02 17:50:00 PASS:

サムライになりましょう!

福岡さん

酒井です、コメントありがとうございました! たしかにテレビや新聞で伝わってくる国民感情とまったく違ったものを感じました。やはり現地に行くのが一番です。それを改めて肝に銘じた次第です。
そして、かつてサムライと呼ばれた人たちのように、私たちが、日本人として恥ずかしくないふるまい、行動をしていくこと。それを、さらに深いところで肝に銘じることになった、貴重な体験でした。

Posted by 酒井俊宏 at 2008/06/04 13:13:00 PASS:
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個人プロフィール

『月刊ニュートップリーダー(L.)』(前身は「経営者会報」)編集部にて社長の取材記事を担当。十数年の間に800名以上の経営者に取材、多くの経営者に感銘を受けた経験から、「日本を支えているのは中小企業とその経営者」と確信し、敬意を抱いている。『経営者会報ブログ』サイト編集部員も兼ねる。

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